切土・盛土の違いは何?それぞれの特徴と見分け方、法規制を解説
道路や河川の維持管理を担う土木職の方にとって、切土と盛土の基礎知識を正確に把握することは、日常業務の根幹といえます。とくに近年は激甚化する豪雨災害への対応や、2023年に施行された盛土規制法への実務的な対応が求められています。
本記事では、切土・盛土の定義と特性を実務の視点で整理し、法的規制や擁壁との関係まで体系的に解説します。若手職員への指導資料としてもご活用ください。
切土(きりど)・盛土(もりど)とは?
切土と盛土は、傾斜地や凹凸のある土地を平坦に造成するための基本的な工法です。
国土地理院のデータによると、日本の国土の約75%を山地が占めていることがわかっています。こうした地理的特徴のある日本において、切土と盛土は、道路・河川・宅地などのインフラ整備で欠かせない技術といえるでしょう。
切土とは
切土とは、丘陵地や傾斜地など高くなっている部分の土を削り取り、地盤面を低くして平坦な地面を造ることをいいます。
切土の大きな特徴は、もともとの地山をそのまま活用する点にあります。長年かけて自然に締め固められた地盤を使うため、盛土と比べて安定性を確保しやすい傾向があります。
ただし、地質や湧水、法面勾配によっては崩壊対策が必要です。
切土によってできた斜面を「切土法面」と呼び、この法面の崩壊防止が維持管理上の重要課題となります。
盛土とは
盛土とは、低い地盤や谷、斜面などに土砂を盛り上げて地盤面を高くし、平坦な地面を造ることをいいます。
盛土は新たに土を積み上げた人工的な地盤です。そのため、転圧・締固めといった施工品質と使用する土質が、地盤の安定性を大きく左右します。
締固めが不十分な場合、地盤が不均一に沈下する不等沈下や、豪雨・地震時の崩落リスクが高まります。切土と盛土が混在する箇所では地盤の硬さに差が生じやすく、境界付近で不等沈下や変状が発生しやすい点に注意が必要です。
切土のメリット・デメリット
切土は地山を活用するため、適切な地質条件であれば安定性を確保しやすい工法です。ただし、地質や湧水、法面勾配によっては対策が必要になる場合があります。
切土のメリット
切土のメリットは、地盤の安定性が高いことです。自然地盤を活用できる場合は、人工的に盛り上げた地盤と比べて、不等沈下のリスクを抑えやすい傾向があります。
道路や河川構造物の基礎として長期にわたって安定した性能を維持しやすい点は、維持管理上での大きなメリットといえるでしょう。
また、切土で生じた残土を隣接する盛土エリアに転用する「土量バランス設計」により、現場外への残土搬出量を抑えることも可能です。
切土のデメリット
切土によって形成された法面は、風雨・凍結融解・植生の根の侵入などによって経年的に風化が進みます。亀裂や浸食が発生すると補修や維持管理が必要となり、管理者の負担につながることがあります。そのため、状況に応じてモルタル吹付けや植生工などの対策を行い、法面の安定性を維持することが重要です。
また、掘削中に硬質岩盤が出現した場合は工事規模が大きくなる可能性があるため、事前の地盤調査で岩質を把握しておくことが重要です。背後の斜面が不安定な場合は、崖崩れによる二次災害のリスクも考慮しなければなりません。
盛土のメリット・デメリット
盛土は道路・堤防・宅地造成など、さまざまな公共インフラに広く用いられています。地形の自由度が高い反面、施工品質の管理がとくに重要な工法です。
盛土のメリット
盛土の大きなメリットは、地形に左右されにくく、計画の自由度が高い点です。低地や谷部でも必要な高さまで地盤を造成しやすく、道路や堤防などの線形計画にも柔軟に対応できます。
また、適切な締固め施工や土質管理を行った盛土は、切土と同等の安定性を確保できます。さらに、切土で発生した残土を盛土材として再利用できるため、現場内で土を有効活用でき、運搬コストの削減や効率的な施工につながる点もメリットです。
盛土のデメリット
盛土の最大のリスクは、地盤の不安定化です。締固めが不十分な盛土では不等沈下が発生しやすく、道路の路面変状や構造物への悪影響につながるおそれがあります。
また、豪雨や地震の際には、崩落や液状化のリスクも高まります。とくに、谷を埋めて造成する「谷埋め型盛土」は水が集まりやすく、地盤が不安定になりやすい点に注意が必要です。
2021年に発生した静岡県熱海市の大規模土石流災害では、不適切な盛土が原因のひとつとして指摘され、盛土の適切な施工や管理の重要性が改めて認識されました。
数十年前に造成された古い盛土は、現在の基準より緩い規制下で施工されたものが多く、内部に木の根や有機物が混入していることがあります。これらが腐敗して空洞化すると、突然の陥没事故につながりかねません。管内の古い盛土箇所を把握し、定期点検に組み込むことが重要です。
盛土地盤でも構造物を設置できる?
「盛土地盤だから構造物を設置できない」という誤解がありますが、実際には適切な調査や対策を行うことで、盛土地盤でも道路施設や各種構造物の設置は可能です。設計では、まず地盤調査によって地盤の状態を把握し、必要に応じて地盤改良を実施します。
代表的な工法としては、表層の軟弱土を固化材と混合して改良する表層改良工法、固化材を柱状に撹拌・混合して支持力を高める柱状改良工法、支持層まで鋼管を打ち込む鋼管杭工法などがあります。
また、標準貫入試験で測定するN値は、地盤の硬さや支持力を判断する重要な指標です。安定した構造物を設計するうえでは、N値をもとに現場条件に適した改良工法を選定することが大切です。
なお、古い盛土地盤では、内部に異物が混入している場合があります。そのようなケースでは、異物の除去や良質な土への置換えが必要になることもあります。
土地が切土か盛土か判別する方法
管内の道路斜面や造成地が切土なのか盛土なのかを正確に把握することは、点検計画の立案や災害リスクの評価、対応の優先順位を決めるうえで重要です。
ここでは、土地が切土か盛土かを判断するための主な確認方法を紹介します。
不動産会社の資料を確認する
宅地造成をともなう土地では、重要事項説明書に造成の履歴や規制区域の指定状況が記載されている場合があります。
また、造成許可申請書や工事完了検査済証などの公文書が保存されていることもあります。宅地造成及び特定盛土等規制法にもとづく許可台帳の照会も有効な手段です。
自治体に問い合わせる
各自治体の都市計画課や建設課では、宅地造成の許可台帳や造成工事記録を保管しています。これらには造成区域の範囲、切土・盛土の高さ、施工年次などが記録されており、管内の点検業務に活用できます。
また、国土地理院の数値標高モデルや旧版地形図を比較して、過去の地形変化を把握することも効果的です。
大規模盛土造成地マップを確認する
国土交通省は、地震時に滑動崩落の危険性がある大規模盛土造成地の分布を、都道府県と連携して調査・公開しています。盛土面積が3,000㎡以上、または盛土前の地盤傾斜角が20度以上かつ盛土高さが5m以上の造成地が対象です。このマップを活用することで、危険箇所の把握や点検の優先箇所の選定に役立てられます。
古地図やハザードマップを確認する
国土地理院の旧版地形図と現在の地形図を重ね合わせると、かつて谷や水田だった場所が現在は平地になっている箇所を確認できます。こうした場所は大規模な盛土が施工されている可能性が高く、維持管理上の注意箇所として認識しておく必要があります。
ハザードマップポータルサイトの「重ねるハザードマップ」機能では、土砂災害警戒区域と地形情報を重ね合わせることで、リスクの高い盛土箇所を視覚的に把握できます。
現地で直接チェックする
現地での目視確認は重要な判別手段です。道路や敷地の境界部に擁壁があり、その上に地盤が広がっている場合は盛土の可能性が高いです。逆に背面に擁壁があり、地盤が道路より低い位置にある場合は切土と判断できます。
電柱の傾きや路面の亀裂・段差、擁壁のひび割れといった変状も、盛土地盤の沈下を示すサインです。日常点検の際にあわせて確認しておくことをおすすめします。
専門家に地盤調査を依頼する
目視や文書確認だけでは判断が難しい場合は、地盤調査会社への依頼を検討しましょう。
ボーリング調査によってN値や地層構成を把握することで、切土・盛土の判定や地盤改良の要否について、根拠にもとづく判断ができます。
切土と盛土の境界付近はとくに不安定になりやすく、変状が確認された箇所については早期に専門家の意見を求めることが、適切な維持管理につながります。
切土・盛土を行う際には許可が必要なケースも
一定規模以上の切土・盛土には、法律にもとづく許可の取得が義務付けられています。旧法と新法の違いを正確に理解しましょう。
宅地造成及び特定盛土等規制法とは
2021年7月、静岡県熱海市で不適切な盛土を発端とする大規模な土石流が発生し、死者・行方不明者・災害関連死28名、損壊家屋136棟という甚大な被害をもたらしました。
この災害を契機に、従来の「宅地造成等規制法」が抜本的に改正され、2023年5月26日から「宅地造成及び特定盛土等規制法」、通称「盛土規制法」が施行されました。
旧法では、規制区域の外にある土地や農地・森林での盛土が規制の対象外となっており、法の網をすり抜けた危険な盛土が各地で問題となっていました。新法では「スキマのない規制」を掲げ、土地の用途にかかわらず危険な盛土を全国一律の基準で包括的に規制する仕組みが整えられています。
主な変更点は次のとおりです。
- 規制区域として「宅地造成等工事規制区域」と「特定盛土等規制区域」の2種類が設定され、市街地から離れた渓流上流域の斜面地なども対象となりました。
- 農地や森林での盛土、さらには単なる土捨てや一時的な土砂の堆積まで規制対象が拡大されました。
- 施工中の定期報告・中間検査・工事完了検査などが制度化されました。
- 罰則が大幅に強化され、無許可や命令違反には3年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、法人が関与した場合は最大3億円以下の罰金が科される場合があります。
こうした法改正の背景と要点を正確に把握しておくことが、適切な現場指導と法令遵守の第一歩となります。
出典:静岡県公式ホームページ「第1章 土石流災害の概要」
出典:国土交通省「『宅地造成及び特定盛土等規制法』(通称「盛土規制法」)について」
宅地造成等工事規制区域を確認する方法
規制区域の指定状況は、各都道府県や市区町村の都市計画課・建設課などの窓口で確認できます。都道府県のホームページに規制区域図が公開されている場合も多く、管内の区域指定状況をあらかじめ把握しておくことで、工事計画の立案時に必要な確認をスムーズに進められます。
2025年6月時点では、47都道府県のうち38都道府県、20指定都市中19市で規制区域の指定が完了しており、今後も指定が進む見込みです。若手職員に指導する際は、管内の指定状況の確認方法を具体的に示すことが重要です。
出典:国土交通省「宅地造成及び特定盛土等規制法に基づく規制区域の指定状況(令和7年6月1日現在)」
切土・盛土と擁壁の関係
切土・盛土によって造成された土地には、高低差が生じます。この高低差を安全に維持するために欠かせない構造物が「擁壁」です。擁壁は土の圧力に抵抗して地盤の崩落を防ぐための壁状の構造物で、盛土の側面や切土の法面を支えるために設置されます。
盛土規制法では、盛土・切土によって生じる崖の高さが一定以上になる場合に擁壁の設置が義務付けられており、設計にあたっては法令の技術基準への適合が求められます。
擁壁の工法には、現場打ちコンクリート擁壁とコンクリート二次製品擁壁の2種類があります。現場打ちは型枠を組んで現地でコンクリートを流し込む方式で、養生期間を含む工期が長くなりがちです。
一方、工場で製造されたコンクリート二次製品擁壁は品質が均一で工期短縮が図れるため、工程管理のしやすさや品質の安定性を重視する現場での採用が進んでいます。設計段階での積極的な比較検討をおすすめします。
フジコンでは、L型擁壁・宅造用L型擁壁をはじめとするコンクリート二次製品を製造・販売しています。CAD図面ダウンロードページでは、設計検討に必要な寸法・仕様を確認できるため、造成計画や擁壁の比較検討にご活用いただけます。製品選定で不明点がある場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。
出典:e-Gov法令検索「宅地造成及び特定盛土等規制法施行令 第8条」
【補足】土地の造成工事を行う際の流れ
切土・盛土は造成工事全体の一工程に位置づけられます。ここでは、土地の造成工事を行う際の流れについて解説します。
1:地盤調査
造成工事に先立ち、まず地盤の状態を把握する必要があります。ボーリング調査やスクリューウエイト貫入試験(旧:スウェーデン式サウンディング試験)によって、土質・地層構成・N値を確認します。地盤調査の結果は、切土・盛土の設計方針や地盤改良の要否判断に直結するため、十分な調査点数と深度を確保することが重要です。
2:整地・地ならし
地盤調査の結果をもとに、造成計画区域の測量と丁張設置を行い、切土・盛土の範囲と高さを確定させます。この段階で既存の排水計画との整合性も確認しておきましょう。造成後の排水不良は、盛土地盤の軟化や法面崩壊の遠因となることがあります。
3:伐採・抜根
造成区域内に樹木がある場合は、伐採と抜根を行います。木の根が残ったまま盛土をすると、根の腐敗により空洞が生じ、地盤沈下の原因になることがあります。抜根した木材や根は、廃棄物処理法にもとづいて適切に処分する必要があります。
4:地盤改良
地盤調査の結果、軟弱地盤が確認された場合は、必要に応じて地盤改良工事を行います。工法は地盤の状態や構造物の荷重などを考慮して選定され、代表的なものとして表層改良工法、柱状改良工法、鋼管杭工法があります。
適切な工法を選ぶためには、調査段階で軟弱層の深さや広がりを正確に把握しておくことが重要です。現場条件に応じた地盤改良を行うことで、構造物の安定性や安全性を確保しやすくなります。
5:切土・盛土・土留め
切土では、バックホウなどの建設機械を使用して、計画した深さまで地盤を掘削します。一方、盛土では、搬入した土砂を一定の厚さごとに敷き均し、ローラーや振動コンパクターで十分に締め固めながら施工を進めます。
とくに盛土では、転圧による締固め品質が地盤の安定性を大きく左右するため、規定の締固め度を満たしているかを確認しながら施工することが重要です。
また、高低差が生じる場所には擁壁などの土留め構造物を設置し、土砂の崩落を防いで地盤の安全性を確保します。
6:残土処分
切土によって発生した残土のうち、現場内の盛土に転用できない分は適切に処分する必要があります。切土量と盛土量のバランスを計画段階で検討する「土量バランス設計」は、現場外への残土搬出量を抑えるうえで重要な視点です。
まとめ
切土は、地山を活用するため地盤が安定しやすいのが特徴です。一方、盛土は地形の自由度が高い反面、締固め品質が安全性を左右します。
2023年施行の盛土規制法で規制対象が大幅に拡大され、無許可施工には最大3億円の罰金が科されます。法改正を正確に把握し、若手職員の指導に活かすことが大切です。
切土・盛土によって一定以上の高低差が生じる場合は、法令や現場条件に応じて擁壁などの土留め対策が必要になります。コンクリート二次製品の擁壁は工期が短く品質も均一で、工程管理と品質の安定を両立できる強みがあります。設計段階で必要な図面データをスムーズに確認できる環境を整えることも、工事全体の効率化には欠かせません。
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造成計画や擁壁の比較検討を進める際は、フジコンのCAD図面ダウンロードページをご活用ください。製品選定で不明点がある場合は、お問い合わせフォームからご相談いただけます。
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